前回、大切なトリッカーズにカビが大量発生した話を書きました。

あの記事では、原因は「保管場所」と「風通し」だと結論づけていたんですが。。。
完全に勘違いでした。
真犯人は、ワタシが良かれと思ってやっていた「グリセリン保湿」だったんです。
今回はその訂正と、なぜグリセリンでカビるのか、じゃあ保湿はどうすればいいのか、カビた靴はどう立て直すのかまで、まとめておきたいと思います。
グリセリン保湿した靴だけ、著しくカビた

改めて並べてみて気づいたんです。
ひどくカビていたのは、グリセリンで保湿した靴だけでした。
使っていたのはこれです。

ワタシは精製水7に対してグリセリン3で薄めて使っていました。
靴好きのブログでもよく見かける割合ですが、メーカーが決めた「黄金比率」があるわけではありません。
ちなみに7:3はグリセリン30%の濃さで、これだと乾いた後にベタつくからと20%まで薄めている人もいます。
一方で、同じ場所に置いていたオールデンやカントリーブーツのコバは、多少はカビてましたがほぼ無傷。
置き場所が同じなのに、カビ方がまるで違う。
これ、もう場所のせいにはできないですよね。。。
そもそもなぜグリセリン保湿をしたかというと、15年もメンテナンスされていない革靴だったからです。
過去の成功例や、保湿。っていうワードが一番最初に頭の中にあったんです。。。
保湿しとけばカサカサにはならないし、レッドロットにもならない。。って勝手に思い込んでいたんですよね。

それが完全に裏目に出た感じです。。。
一番顕著に出てたのはトリッカーズのモンキーブーツ。それもコバからびっしりカビが生えていました。

よく見ればコバのところが真っ白です。
ここでおかしい。って気づけばよかったんですが、勝手に環境のせいにしていたんです。
前回の記事ではここを「保管場所の暗さと空気の動き」で説明していましたが、今思えば、ちゃんと条件を揃えてしまっていたのはワタシ自身の手入れの方だったんです。
なぜグリセリンでカビるのか
前回の記事で、カビが生えるには4つの条件が必要だと書きました。

「酸素」「温度」「湿度」「栄養」
で、グリセリンってどういうものかというと、とにかく水を呼ぶ成分なんです。
周りの湿気を引き寄せて、抱え込む。
だからこそ保湿剤として使われているわけですが、裏を返せば、革の中に水分を溜め込み続けるということでもあります。
しかもグリセリンは、微生物のエサにもなる成分なんですよね。
つまり、グリセリンを塗るということは。。。
「湿度」と「栄養」を一度に足していた。
カビからしたら、
水とごはん
を同時に出してもらっているようなものです。
そりゃ生えますよねw
前回「湿度と栄養は自分でコントロールできる」と書きましたが、コントロールどころか、自分でせっせと両方を足していたわけです。。。
保湿剤って、名前のとおり「潤いを保つ」ためのものですよね。
肌に使うなら、乾燥を防いでくれるありがたい成分です。
でも、しまいっぱなしの靴にとっては話が違います。
履かれずにじっとしている靴の、特に液が溜まりやすいところで、湿気を抱え込んだまま、エサまで用意されている。
保湿の「保つ」が、そのままカビの味方になっていた。
ワタシはそう考えています。
靴の保管場所は、もともとカビが好む環境
ここで、靴をしまっている場所のことも考えてみました。
自治体のカビ対策の資料を見ると、住宅のカビは「温度20〜30℃・湿度80%以上」でよく育つとされています。
そして、カビが生えやすい場所として、下駄箱がしっかり名指しされているんです。
たしかに下駄箱って、扉を閉めたら空気はほとんど動きません。
雨の日に履いた靴をそのまましまえば、その湿気も一緒に閉じ込めることになります。
ちなみにワタシの場合、靴は下駄箱ではなく、室内の暗室に置いた自作の棚に並べています。
ただ、暗くて閉め切った部屋という意味では、下駄箱とよく似た環境なんですよね。
梅雨から夏にかけての日本なら、温度の条件もわりと簡単にそろってしまいます。。。
つまり、下駄箱でも暗い部屋の棚でも、靴の保管場所はもともとカビにとって居心地のいい場所になりやすい。
そこに、水を呼んでエサにもなるグリセリンを塗った靴を並べていたわけです。
カビにとっては、住みやすい部屋に、水とごはんまで付いてきた状態。
前回の記事で「保管場所」を疑ったのは、半分は当たっていたのかもしれません。
ただ、決定打を打ったのは場所ではなく、ワタシの手入れの方だったんだと思います。
プロはグリセリンをどう使っているのか
気になって、博物館の保存修復の世界ではどう扱っているのかも調べてみました。
古い革装本の修復で、グリセリンを使う手順はありました。
ただ、そこでは仕上げに防カビ剤入りの油と蝋を重ねていて、保管の温度や湿度まで決められていたんです。
グリセリン単体で使って終わり、ではないんですよね。
防カビと湿度管理がセットになって、初めて成り立つ使い方。
さらに今の博物館では、手入れ剤を塗ること自体をなるべく減らして、保管環境を整えることを一番に考えているそうです。
もちろん博物館の収蔵品は履かないので、毎日履く靴の手入れにそのまま当てはめることはできません。
それでも、防カビも湿度管理もなしに、グリセリンだけを塗って下駄箱や棚にしまう。
ワタシがやっていたのは、プロの前提を全部すっ飛ばした使い方だったんだと思います。
コバにグリセリンはNGなのか
コバからカビが出る話は、昔もこんな記事を書いていました。

ここは調べた範囲では、はっきり書かれた資料は見つかりませんでした。
なので、ここからはワタシの観察と考えです。
コバは、アッパーのようにクリームでしっかり覆われていないことが多い場所です。
縫い目や接着部分もあって、液体が入り込みやすい。
そこにグリセリンを入れると、水を呼ぶ成分がコバの奥に居座り続けることになります。
モンキーブーツがコバから生えてきたのを見ると、自分はそういうことだったんじゃないかと思っています。
なのでワタシは、コバにグリセリンはもう入れません。
是正: カビた靴の処置と、これからの保湿
まずはカビた靴の処置から。
カビ取りの基本は、前回の記事に書いたとおり、水で拭かないこと。
皮革用のカビ取り剤を使って、カビ菌そのものを除菌します。
作業はできれば屋外で。
拭いたり払ったりすると胞子が舞うので、部屋の中でやらない方が安心ですね。
マスクと使い捨ての手袋もあると、なお安心です。
皮革用のカビ取り剤は、有機ヨードという成分が主役のものが多いです。
これがカビの細胞膜を壊して除菌してくれる仕組みで、カビが出る前の予防にも使えるとされています。
表面のカビを落としたら、カビ取り剤でしっかり除菌。
そのあとは、風通しのいい場所でゆっくり乾かします。
ここで焦ってドライヤーの熱風を当てたりすると、今度は革を傷めかねないので、あくまでゆっくりですね。
ただ、もう染み込んでしまったグリセリンだけをきれいに抜く方法は、調べた範囲では見つかりませんでした。
なので、コバにはこれ以上足さないこと、湿気をためないことで付き合っていくしかなさそうです。
で、これからの保湿です。
グリセリン保湿はやめない。ただし、コバには入れない。
あわせて、メーカーの基本も押さえておきます。
トリッカーズは、保湿はシュークリームでと案内していて、革は吸い込みやすいので一度に塗らず少しずつ重ねるように、とのこと。
クリームはワックスの前に塗る(ワックスの上からだと染み込まない)。
履いたあとは柔らかい布で汚れを落として、涼しくて乾いた場所に置く。
グリセリンを使うにしても、メーカーが言っている基本を外さないのが一番の近道なんですよね。。。
クリームの選び方も、トリッカーズは案内しています。
色を変えずに保湿だけしたいならナチュラル(無色)、色あせも補いたいなら色付きのクリーム。
そして寒くて乾燥する時期は、クリームでしっかり保湿してから、薄くワックスを重ねて表面に膜を作る。
こうしておくと、水や汚れが入り込みにくくなるそうです。
ここで大事なのは、どれも「少しずつ」「乾いた場所で」が前提になっていること。
ワタシがやっていたのは、水を呼ぶ成分をたっぷり入れて、閉め切った暗い場所にしまう。
ちょうど真逆だったんですよね。。。
保管の方も、靴箱なら空気の通り道を作る、すのこやネットを敷く、除湿剤や防カビ剤を入れる。
木製のシューツリーを入れておくのも、湿気対策としてよく勧められています。
このあたりは前回の記事の対策がそのまま使えます。
天日干しについては、別の記事で検証しています。

グリセリンで保湿したことがある方へ: 見ておきたい場所
もし過去にグリセリンで靴を保湿したことがあるなら、一度チェックしてみてください。
自分への反省も込めて、見ておきたい場所をまとめておきます。
- コバ(靴底のふち)と、ウェルトの縫い目のあたり
- アッパーとソールの境目など、クリームが届きにくいすき間
- 下駄箱や棚の奥に、しばらくしまいっぱなしの靴
- 雨の日に履いたあと、乾かしきらずにしまった靴
白っぽい粉や、緑っぽい点々が見えたら要注意です。
カビ臭さがあるときも、表面に見えていないだけかもしれません。
早めに見つければ、それだけ処置も軽くて済みます。
ワタシのモンキーブーツも、始まりはコバからでしたから。。。
おわりに
今回はワタシの勝手な思い込みによる失敗を書きました。
ただ誤解がないように伝えると、保湿することは良いことです。
実際、グリセリン保湿した革はモチモチしてて潤いがあります。
またコバ以外にはカビは生えていませんでした。
ここが不思議なところではあったんですが、顕著なのはコバのみです。
多分、コバの中にグリセリン液が溜まっていたんだと思います。
ただ、やる場所が違ってた。自分の手でカビの条件を揃えていました。ってことです。
グリセリン保湿はコットンとかに染み込ませて革の上に置く。っていうのが良さそうで、ワタシみたいに筆でジャバジャバ塗るもんじゃない。
そのグリセリンが垂れてきてコバに染み込むんです。
これはだめなやり方でしたね。。。
反省しています。。。
コバに染み込みそうなところは予めマスキングして染み込みを最小限に抑えたやり方のほうが良さそうです。
もしグリセリンで革靴を保湿している方がいたら、一度コバや縫い目のあたりを見てみてください。
ワタシみたいに「なんじゃこりゃ」となる前に。
保湿はコバを避けて少しずつ。そして靴には乾いた空気をあげましょう。
お手入れは、あくまで自己責任の範囲でお願いしますね。


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